都心の病院に勤務されている場合には、マイホームとして戸建て住宅よりも、分譲マンションを選ばれる先生が多いのではないでしょうか。本記事では投資目的ではなくマイホームとして分譲マンションを購入することの資産価値診断について考えてみたいと思います。戸建てのマイホームについてはこちらの記事で取り上げていますのでよろしかったらご参照下さい。
本記事で対象とする分譲マンションは、東京都内の20階以上の高層マンション、いわゆる”タワマン”ではなく、10階以上20階以下、価格帯も1億円以下の物件とすることにします。
マイホームとしての分譲マンションのメリット
マンションの敷地内車安全性が高く、セキュリティも安心
建築基準法における耐震基準は大地震が起こる度に改正されています。1981年5月31日以前の耐震基準を「旧耐震基準」、1981年6月1日以降の耐震基準を「新耐震基準」といっています。さらに1995年の阪神淡路大震災では、多くの建造物が倒壊したこともあり、2000年に耐震基準はより厳しく変更され、「2000年基準」といわれています。医学同様に、耐震、免震構造も学問的にも進化しており、築年数の浅い、新しい物件であれば耐震性能などを過度に心配することは不要ではないでしょうか。
マンションは木造建築ではないため、火災の際にも基本的に燃えません。木造戸建てに比べ火事に強いと言えます。
勤務医である以上、当直や夜間のオンコールは避けられないものです。そんな時でも安心して仕事するためには、家族を安心して任せられる住まいが必要です。私の経験上、防犯面ではブランドマンションなど、一定水準の分譲マンションの方が戸建て住宅よりも断然安心感がありました。ブランドマンションでは、オートロックはもは常識ですし、エレベーターホールは、防犯カメラにより死角なく守られています。室内にもセキュリティ会社直通の緊急通報装置や、玄関・窓にマグネット式防犯センサーが設置されているマンションも増えています。
掃除や手入れが楽
妻の話ではマンションは戸建てに比べ掃除が断然楽だそうです。階段もないし、何より面積が小さく生活スペースが集約しているので掃除しやすいろのことでした。また、エントランスや共用部の廊下などは管理会社が定期的に清掃を実施してくれるため、常にきれいです。ゴミ捨て場も戸建ての場合は自転車や車で出しに行くこともあったのが、マンションの場合は、敷地内に24時間365日いつでもゴミを捨てられてとても便利と喜んでいました。
見晴らし、眺望が良い
戸建て住宅は一般的に2階建てが多く、まれに3階建てはあるものの4階建て以上の物件はそうそう目にすることはありません。マンションは高層階であれば眺望もよく、道路を歩く人など周りからの視線が気にならないところも安心です。
土地の固定資産税が安い
戸建て住宅を購入する際には土地代と建物代を別々に支払うのが一般的ですが、マンションを購入する際には、土地代と建物代が分離されていることはなく、総額として支払うことになります。
マンションでは一般的に高層階になるほど販売価格は高くなりますが、各戸の土地所有区分は、マンション全体の敷地面積を戸数で割ったものとなるため、どの階でも、どの部屋でも均一となります。ですので、土地の固定資産税は低層階でも高層階でも同じとなります。
高階層と低階層の価格差はタワーマンションではより顕著となります。タワーマンションの、この価格差を利用した相続税対策が横行したこともあり、平成29年4月以降に売買契約を締結したタワーマンションを対象に階層による補正調整が行われるようになりました。「1階を100とし、1階増すごとに39分の10(0.2564)を加算」されることになり、1階上がるごとに約0.25%税額が増えるようになりました。
町内会などのご近所づきあいが少ない
マンションでは戸建て住宅のような自治会や、町内会などのご近所つきあいは少ないのが一般的です。町内会費は年間数千円支払うもののdutyなし、というマンションが多いのではないでしょうか。数百戸単位の大規模分譲マンションでは、回覧板が回ってきたり、自治会が存在することもあるようですが、地域のお祭りや消防、冠婚葬祭、婦人会などで招集がかかることはまずないと思います。あったとしても、せいぜい、こどもの学童期に通学時の旗振り当番ち資源ゴミ回収の当番くらいではないでしょうか。
ご近所つきあいが気楽な点は勤務医にとって快適です。医師であることが分かると、身内や自身の健康や医学に関して相談されることが少なくありません。また、勤務医の生活や医師という職業自体に興味を持たれて根掘り葉掘り質問され閉口したこともあります。そんなこともあって、私はマイホーム時代、自分が医師であることは周囲には伝えないようにしていました。国立大学勤務だったので、こどもの幼稚園や学校に提出する書類にも保護者の職業欄は「公務員」と記載していました。マンション生活では、プライバシーを重視する住人が多いため、お互いの職業などには立ち入ることも少なく気楽に過ごせます。
マイホームとしての分譲マンションのデメリット
ローンを完済しても毎月コストが発生する
分譲マンションはローンを完済してもただで住み続けることは出来ません。管理費と修繕積み立て金というコストが合わせて毎月数万円(2~5万円くらい)の発生します。しかもマンションの組合によっては管理費が後に増加することもあります。マンションの管理費については以下の漫画でも取り上げられています。参考になると思います。
また、10年に1度くらいの頻度で外壁塗装や屋上工事などの大規模修繕が発生して臨時徴収金が発生する物件もあると聞きます。購入時に、大規模修繕のスケジュールや中古物件では、過去の管理費・修繕積み立て金の変動などを確認されることをお勧めします。
自家用車を所有している場合は駐車場料金も毎月のコストになります。
機械式やタワー式駐車場のマンションでは戸数に比べ、駐車可能台数が少ない場合も少なくありません。低階層の物件では駐車場の割り当てが最初からない場合もありますので、必ず確認しましょう。
最近は夫婦共働きで自家用車を2台所有しているご家庭も少なくないと思いますが、2台目をマンションの敷地内に確保することが不可能な場合、近隣の月極駐車場を契約しなければならなくなり、さらにコストがかかります。
私のマンションでも近隣に月極駐車場を借りている方が結構いますが、車上荒らしに会って窓ガラスが割られるなどの被害を受けた方もいます。防犯カメラのない月極駐車場は要注意です。
エレベーター問題
特に世帯数の多い大規模マンションでは通勤・通学時間にエレベーター待ちが発生することは必発です。コロナ禍の現在では、三密回避のために、本来のエレベーターのキャパよりも定員数を少なくしている物件などもあり、中階層では降りてきたエレベーターに乗れずにスルー、なんていう話も耳にします。また、最近は高級マンションでもペット可の物件が増えています。ペットが乗っていることを表示するペットボタンのあるエレベーターは良いのですが、ペットアレルギーの方が予期せず、狭い空間でペットと居合わせてしまうリスクもあります。
一部の1回や間取りや延床面積を自分で決めることが出来ない
戸建て住宅では、土地の大きさと予算による制限はあるものの、基本的には建物の設計から外構まで自分でデザインすることが可能ですが、分譲マンションは間取りや広さなど、決められたパターンの中から選択するほかありません。また、庭もないのが普通です。
購入後に日当たりが悪くなるリスク
南向きでない物件や、遮蔽物がある場合、隣接物件がある場合は洗濯物などの乾きが悪かったり、景観が悪かったりする場合があります。購入時は日当たり、景観が良くても購入後に隣接物件が建つ場合もあります。購入時点で、自分の物件よりも低層階のアパートやマンション、戸建て住宅がすでに建っていれば、購入後に大きく景観が変わる可能性は少ないと思われますが、自分の物件の前に広い空き地がある場合は見晴らしが良くても要注意です。建設可能なマンションの高さは、土地の面積に比例します(建坪率)ので、まとまった広い空き地があると自分のマンションよりも高層階のマンションが建ってしまう可能性があるので要注意です。
延床面積は戸建て住宅に比べ圧倒的に小さい
戸建て住宅は敷地面積がよほど狭くない限りは2階建てにも3階建てにもすることが可能なので、延床面積を増やすことは可能です(建築費はかかりますが)が、マンションは基本ワンフロアなので、同じ予算の戸建てに比べ延床面積は小さくなる傾向にあります。
収納スペースが圧倒的に小さい
マンションの収納スペースが戸建てに比べて小さいことは、こちらの記事でも触れていますが、延床面積が少ない分、収納スペースは小さくなります。
騒音問題
こどもやペットの泣き声(吠え声)などは、高級マンションであっても意外に聞こえてくるものです。気になる場合は最上階、全室角部屋などの物件を探しましょう。マンションでは左右の音よりも上階の音が気になることも多いのですが、床の厚さや遮音等級などを購入前に確認しましょう。
私の経験では最上階であっても屋上からの物音が響くこともありました。屋上にはアンテナ類など意外に構造物があるものです。取り付けられていたアンテナの固定が緩んでいて、風の強い日に「ガンガン、ゴンゴン」聞こえてきたことがありました。「マンションの最上階ってこんな音がするんだ」と生理的現象なのかと諦めていたところ、お隣さんから「屋上の音うるさくないですか?以前もアンテナが外れて同じような音がしてたんですよ」と言われ、初めて病的症状だと気付いたという経験があります。その後、お隣さんからの連絡を受けた管理会社が補修工事をして、異音は消失しましたが、風の強い日は「カンカン、コンコン」音がする日はあります。
災害時のライフラインダメージ
2019年の台風19号の内水氾濫により、川崎市のマンションの地下3階の電気室が冠水したことがありました。このマンションは建物全体が停電に陥り、エレベーターはもちろんトイレも使えなくなり、苦悩する住人の様子がニュースにも取り上げられました。
ここまでいくと、もはや災害級のライフラインダメージと言えますが、停電で非常電源も落ちてしまうと、エレベーターが稼働しなくなるため、階段を上り下りすることになります。水道水を上階層に引き上げるためのポンプが作動しなくなれば、トイレも水道も使えなくなる可能性があります。体力が低く、足腰の弱い高齢者にとって、荷物を持っての階段の上り下りはかなりの負担になりますので、買い物に行くのも一苦労です。若い世帯であっても、乳幼児がいる場合は、階段での転倒の危険もあり、事実上、マンションから出られなくなる可能性があります。
購入前に、一度は家族全員でにエントランスから部屋までエレベーターを使わずに階段でアクセスが可能かどうかを確認しておく必要があります。30階以上のタワマンの場合は階段でのアクセスはアスリート以外ほぼ不可能と考えて良いでしょう。万が一に備えて、勤務先の病院でもなるべくエレベーターを使わずに階段を使うようにして慣れておきましょう。
駐車場が確保しにくい
都心のマンションになるほど、平置き駐車場を確保するのは難しくなります。機械式、もしくはタワー式の駐車場となることが一般的ですし、都心には、そもそも駐車場がないというマンションも少なくありません。
機械式やタワー式の駐車場は当然維持費がかかりますので、駐車料金も発生します。特にタワー式駐車場の維持費は機械式の数倍かかると言われており、管理費や販売価格に維持費が組み込まれるため、購入、維持ともにコストがかかります。
また、これらの駐車場では同時に複数の車の出し入れは出来ません。エレベーター同様に通勤時間は順番待ちが発生します。たたでさえ忙しい朝の通勤時間に待ち時間の読めないタワー式駐車場に翻弄されるのは辛いところです。
マンション売却時の注意事項
勤務医であれば、一生同じ病院に勤務することはかなり珍しいのではないでしょうか。大学医局に属していればなおさらでしょう。「単身赴任」という選択肢もあるでしょうが、私の場合は今まで全て家族同伴で引っ越しを繰り返してきました(私の引っ越し半生についてはこちら)。いつかは訪れるかもしれない引っ越しの時には、購入したマンションは貸すか、売るかの二択となります。保有するマンションの中古価格相場が購入時よりも上がるのか下がるのかは、勤務医としての資産形成を考える上でとても重要です。
購入時よりも売却時の方が高い方が良いわけですが、マンションに限らず不動産を売却する際に、買値よりも売値の方が上回ることで発生した差額(収益)をキャピタルゲインと言います。似たような言葉にインカムゲインがありますが、これは簡単に言えば所有する不動産によって得られる家賃収入のことを表します。
売却時にキャピタルゲインは得られないまでも、売値が購入価格よりも大きく下がってしまうのは避けたいところですね。キャピタルゲインが出た場合には税金がかかることを忘れてはいけません。また、売却するときは購入後5年経過してからの方が税金が安くなります。その際の注意点は以下の通りです。
・短期譲渡所得(所有期間5年以下):所得税30%+住民税9%=39% (詳しくはこちら) 。
・長期譲渡所得(所有期間5年超え):所得税15%+住民税5%= 20%(詳しくはこちら)。
・譲渡した年の1月1日現在の所有期間として考える(12月購入と2月購入でだいぶ変わります)。
・マイホーム売却時は譲渡所得から最高3,000万円まで控除ができる特例があります(詳しくはこちら)。
駅までの距離が勝負を制する
先日、不動産営業マン(ウーマン)さんとマンションの売却についてお話する機会があったのですが、この方もとても優秀な方でした(優秀な不動産営業マンの記事はこちら)。お話しの中で興味深かった点をいくつか挙げてみます。
・今後、コンパクトシティ化がみ、駅近(えきちか)マンション需要は増加し、郊外の需要は減少する。
・その会社は駅近物件しかマンション開発をしていない。
・駅近といっても、駅なら何でも良いわけではない。総合駅や急行停車駅が良い。
・駅に近すぎても(駅構内のアナウンスが聞こえるほど)だと騒音により逆にマイナスとなることもある。
・子育て世代にとっては学区も重要。地域毎に人気の公立学校が決っている。
・高齢化が進むことで駅近物件の人気は更に高まる。
・駅までの道のりも重要。坂道が多い、信号が多いなどは実測距離以上に時間がかかるので評価減。
・新築マンションの供給が潤沢なときは中古は売れにくい。新築マンションが少ないときは中古が売れる。
お話を聞いていて感じたのは、「駅近」物件以外はリセール戦争を勝ち抜きにくのが難しいという印象でした。駅近の定義は諸説ありますが駅まで徒歩5~7分以内を指すことが多いようです。設備や間取り、床面積よりも立地が勝敗を決するのではなと個人的には感じています。
結論:分譲マンション買うなら、設備より、広さより「駅近」物件!