資産形成

新築マンション勧誘電話の「3つの常套句」はウソか?ホントか?

勤務医なら誰もが経験する不動産会社からの勧誘電話

勤務医をしていると、近隣クリニックの先生や、学会、メーカーなどから外線電話を受けることはしばしばですね。そんな中、ゲリラ的にかかってくるのが不動産会社からの勧誘電話です。電話口では言葉巧みにマンションの購入を勧めてきます。

  • 「都内新築マンションのご案内です」
  • 「節税対策を無料で御相談に乗ります」
  • 「絶対に儲かる投資のお話があります」
  • 「先生だけにご案内する、特別な物件があります」

中には「○○科の○○と申しますが、○○先生につないで下さい」と同業者を語ったり、実在する検査会社の名を騙って「△△の△△と申しますが・・・」など、電話交換の方の段階でスクリーニングしにくい巧妙な電話もかかってきます。また、最近経験したのは、予め「○月○日にお電話させて頂きます」などの文言の入ったダイレクトメールを送付しておいて、後日「本日○○先生とお話しするアポを取ってあります」と電話をかけてくるというパターンでした。

手を変え品を変えかかってくるこれらの電話の目的は、全て「新築マンション購入」の勧誘です。

なぜ、勤務医に新築マンションの勧誘電話がかかってくるのか?

これには勤務医という職業は、銀行の融資担当者からみた場合の「個人属性」が高い(高属性)ことが関係しています。ここでいう個人属性とは、銀行目線で融資候補者を見た場合の「融資の通しやすさ」の指標のようなものです。例えば以下の属性を比較した場合、銀行目線的には誰に融資したくなるでしょうか?

  1. 年商3000万円の企業の社長
  2. 年商1500万円の店舗を2店保有する個人事業主
  3. 年収600万円のサラリーマン

答えは3の年収600万円のサラリーマンです。実際には他に、勤務先、家族構成、他の融資状況なども考慮されますが、銀行が融資を決める際に最も重視するのは、長い返済期間を事故(トラブル)なく着実に支払い続けてくれる「安定性」なのです。どんなに流行っているお店であっても時流や景気の変化などにより、倒産する可能性はゼロではないですよね。一時期流行したタピオカ屋さんも、タピオカブームの終焉とコロナ流行とのダブルパンチで閉店するお店が増えていると聞きます。会社の経営も同様のリスクを抱えているといえます。

その点、勤続年数の長いサラリーマンは会社が倒産しない限り、職を失うことはないでしょう、というのが銀行の目線です。このようにサラリーマンは高属性で銀行がお金を貸したくなる対象だと言うことはご理解頂けたかと思います。勤務先が一部上場企業や、公的機関(国、県、市)のサラリーマンであれば、もう鬼に金棒状態ですよね。国立病院や県立病院に長年勤続している勤務医(サラリーマン)はさらにその上を行く異次元の強さと言えるでしょう。

勤務先や職業の他に銀行が融資の際に重視する属性の一つが年齢です。いくら一部上場企業にお勤めの部長さんでも、55歳以上であれば、35年ローンを組むのはちょっと厳しいですよね。この点においても医師や弁護士などの士業は強いと言われています。勤務医に定年はあっても、医師免許に定年制はないですよね。若手から中堅の勤務医の先生は、銀行からすれば鉄板の融資先の一つといえましょう。イコール、不動産会社の営業マンのターゲットにもなりやすい、ということです。

カボチャの馬車事件から何を学ぶか

数年前に、サラリーマンの間で不動産投資が一大ブームになりましたが、このスキームでは、このようなサラリーマンの高属性が利用されていました。しかし、一方で、銀行の過剰融資や、不動産投資ブームに勢いづいた危ういビジネスモデルを背景に様々な事件が起きたことも事実です。その最たるものが「カボチャの馬車事件」でした。

この事件では、某地方銀行が年収300万円程度のサラリーマンに数億円もの新築シェアハウスの建築資金を融資する、という無謀な融資が事件の傷口を拡げたと言ます。何故銀行はこのような無謀な融資を繰り返したのでしょう。それは、シェアハウスが満室稼動していれば、サラリーマンとしての年収など関係なく、家賃収入によるキャッシュフローのみでローンの支払いが可能だからです。しかし、建築・販売会社のスマートデイズの無謀なビジネスモデルが破綻し、同社からオーナー(サラリーマン投資家)へのサブリースの支払いがストップしたことで、オーナーはローンの返済不能に陥り、次々と自己破産に追い込まれていきました。

この事件に登場する某地方銀行は他行に比べて金利が高いことでも有名です。仮に1億円を金利5%の元利均等35年ローンとした場合の月々の支払いは50万円を越えます。年収300万円のサラリーマンにはとうてい返済不可能な金額です。銀行が何故このような無謀な融資を繰り返したのかは私には分かりませんが、融資審査の際に、融資申込者の金融資産を多く見せるために、預金通帳を改竄するという不正行為まで行ったことには恐怖すら感じます。

平均年収以下のサラリーマンでも数千万円の不動産ローンが組めてしまうほどに加熱した不動産投資ブームが、この事件の背景にあったのかもしれません。

融資を受ける物件の属性も重視される

勤務医が他の職種に比べ、銀行からお金を借りやすいということは前述したとおりですが、最近は少し風向きが変わってきました。カボチャの馬車事件以降は、金融庁からの指導などの影響で、不動産投資に対する融資は通りにくくなっています(私も築古の1棟アパート融資を断られたことが何度もあります)。というのも最近の銀行は、融資を受ける個人の属性だけではなく、購入する物件の属性も重視するようになってきたからです。

これは融資を受けた個人が返済不能に陥った場合の担保として、資産価値の高い物件に融資したいという銀行側の保身の表れともいえます。万が一債務者が返済不能に陥った場合、担保物件は競売や任意売却という形で現金化され、借金の補填に回されますので、現金化しやすい資産価値の高い物件の融資したくなるのは当然と言えば当然です。

それではどのような物件が資産価値が高いのでしょうか?そもそも、不動産価格は家電製品や食料品のように誰の目にもわかりやすい相場観が存在しないことが、不動産投資が胡散臭いイメージをもたれている理由の一つです。ただ、古い物件よりも新しい物件の方が高く売れそうなのは直感的にお分かり頂けると思います。物件の属性としては、利回りが高い田舎の築古1棟アパートよりも、利回りの低い都心の新築区分マンションの方が高いというわけです。

だからこそ不動産勧誘電話は、「都心の新築物件」を買わせようと勧誘するのです。その方が融資が通りやすく、契約から購入までスムーズに進むからです。いくら購入者が買う気になっても肝心の銀行融資がおりなければ、物件を売ることは出来ませんので。

建築会社や不動産屋が収益を得る仕組み

実際にはこのような勧誘電話で紹介される物件(新築区分マンション)は、デベロッパーや建築会社の設け分を上乗せした販売価格が設定されていることがほとんどです。極端な話ですが、建築費3000万円の区分マンションを3500万円で販売するよりも、4000万円で販売した方が販売者側は儲かりますよね。前述したとおり、不動産の価格相場は、素人にはとても分かりにくいものです。「山手線沿線」「新築」「話題の○○地区」などと適当な理由を付けられれば4000万円と言われても「そんなものかな・・・」と思ってしまうのも当然です。

不動産会社としても物件か価格が高い方が手にする仲介手数料も上がりますし、キックバックがあればなおさら高い値段で売りたくなる気持ちも分からないではありません。中古物件の売買ではさらに「トリプル両手」「あんこ」「三ため」などの裏技も炸裂します。いずれにせよ我々が勧められる新築区分マンションには、建築会社の儲けがたっぷりと上乗せされ、適正価格よりもかなり割高に販売されることで、建築会社も仲介する不動産も利益を得る仕組みになっています。

漫画で不動産屋さんの実態について学ぶことが出来ます。5巻にトリプル両手について詳しく解説されています。全巻通読するのも勧めです。  ↓ ↓ ↓

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決まり文句その1.「不動産購入は生命保険代わりになりますよ~」は本当か?

これは嘘ではありません。ローン返済中に債務者が万が一死亡してしまった時には、その時点で残債が保険によって支払われ、ローンが完済する仕組みが「団体信用生命保険」通称「団信」です。例えば、4,000万円の物件をローンを組んで購入し、200万円ほど返済した時点で不幸にも亡くなってしまった場合、残債の3,800万円(金利は無視します)は団信によって完済され、遺族にはローンの完済された物件が遺されることになります。まさに生命保険代りということになります。

しかし団信は無料で付いてくるわけではありません。通常「金利に0.2%上乗せ」のような形で課金される仕組みになっています。さらに、この上乗せ分を上げることで「癌特約」「3大・5大疾病特約」などの特約を組むことが出来ます。こうなってくると、ますます生命保険らしくなってきます。それではぶっちゃけお得なのか?ですが、4,000万円を35年間、元利均等3%の固定金利で借りた場合の月々の返済額は153,940円です。これに団信を付けて金利が0.3%上がる(3.3%)と返済額は160,714円となります。その差額(団信支払額)は6,774となります。某生命保険ぼネット見積もりでは「35歳男性、30年保証、死亡保険金・高度障害保険金4,000万円」とした場合の毎月の保険料は10,950円でした(2021年4月現在。生命保険について詳しく御相談されたい方はこちら↓)

それでは団信の方が10,950-6,774=4,176円/月分お得と言えるでしょうか?団信と生命保険の大きな違いは、団信は死亡時の年齢が高い(返済期間が長く残債が少ない)ほど、相殺額(保険金に相当)は少なくなります。前述の例でも残債が3,800万円を割るのは約3年後です。38歳の時点で亡くなったとしても保険金相当額は3,800万円まで目減りしてしまうのです。

一方、生命保険の場合は38歳でも50歳でも保険金は4,000万円と変わりません。さらに不動産は「不動」と言われるくらいですから、すぐに現金化するのは難しいという欠点もあります。皆さんならどちらを選びますか?

決まり文句その2.「不動産を購入しておけば老後の年金代りになりますよ~」は本当か?

これは、はっきり言ってNo!です。私なら絶対この物件買いません。「都内の新築区分マンション購入プラン」にありがちな「ご購入プラン」を想定して考えてみましょう。謳い文句は「山手線沿線駅まで直通電車で15分の、23区内の新築4,000万円の物件です!ローン完済後にはこの物件があなた(35歳と設定)のものになります」としましょう。

  • 設定家賃(サブリース)毎月16万円/月
  • 当社提携金融機関の長期固定金利(35年)の支払い160,714円/月(開始時利息11万円)
  • 毎月714円の支払いで都内の新築マンションが手に入ります
  • 万が一の時にも団信があるので遺された家族も安心です。

ちなみにサブリース契約とは、簡単に言うと「空室だろうがオーナーに毎月固定額(この場合は16万円)が入りますよ」という契約で、サブリース金額は一般的には、家賃の15-20%を手数料として家賃から差し引かれた程度の金額として設定されることが多いようです。テレビCMなどで耳にする「30年一括保証!」というのはサブリースのことを指しています。

さて35年間ローンを返済した70歳の時点で、この部屋の資産価値をどう考えるか?これは難しいので、どのくらいのキャッシュフローを生むか?を考えてみましょう。不動産物件検索サイトで「北区、足立区、築34-36年、ワンルーム、駅徒歩10分以内」で検索したときの最高価格の物件が約1,300万円でした(最低価格660万円!2021年4月)。この物件の表面利回りは6.48%、家賃5万円です。総返済額は借入額4,000万円+利息でトータルの返済額は約6,750万円ですが、これは毎月の家賃で相殺されていますので、オーナー(購入者)の実質負担は毎月714円分714×12×35=約30万円のみです。30万円で毎月5万円のお金を生む1,300万円のキャッシュマシーンが手に入ります。これならまさに年金代り、お得ですね・・・。

いやいや、もう少し冷静に考えてみましょう。これは家賃下落率が0%、空室率0%であることが前提条件です。「でも、そのためのサブリース契約なんだから、空室だろうが家賃下落しようが関係ないでしょう」という気持ちも分かりますが、契約書をよくよく読んでみると、きっと小さな文字でこう書かれていると思います。「*サブリース金額は2年に一度見直され35年間を同額で保証するものではありません」と。

サブリース金額が下がる可能性はあります、というか下がるのが当然と考えるべきでしょう。なぜならローン支払後の時点で家賃は5万円まで下がっているのです!管理会社は慈善団体ではないので、毎月11万円の損失を被り続けるはずがありません。しかも35年間空室期間がゼロなどということはまずあり得ません。35年間の間に、サブリース額は大きく減額されているはずです。

購入10年後からサブリース額が14万円、20年後に10万円に減額された場合は毎月のキャッシュフローはマイナス10年後から20,714円、20年後から50,714円となります。トータルの持ち出し金額は714円×12ヶ月×10年+20,714円×12ヶ月×10年+50,714円×12ヶ月×15年=85,680円+2,485,680円+9,128,520円=約1,170万円の支払いとなります。やれやれ1,300万円と、とんとんだけど、毎月5万円の年金代りにはなるのでは・・・・

いやいや甘いです。毎月5万円も手残りはありません。区分マンションには管理費と修繕積み立て費(以下、管理・修積み)が毎月徴収されます。ちなみにこの物件の管理・修積みは併せて約1万円でした。手残りは4万円弱ということになります。それだけではありません。築35年のマンションが大規模修繕を1度もしないことはあり得ないでしょう。場合によっては100万円単位の臨時徴収があるかもしれません。管理・修積みはローン返済中も当然徴収されます。

つまり前述のトータル支払額は1,170万円に1万円×12ヶ月×35年=420万円足して1,590万円になるのです。上記シュミレーションは損益分岐点などをかなり甘く見積もった結果です。私がこの物件買わない理由が御理解頂けたでしょうか。

決まり文句その3.「投資用マンションを購入すれば節税になりますよ~」

これも常套句の一つです。というよりも、この常套句こそが、本来医師が不動産投資をする上で、最も重要になるものだと個人的には考えています。したがって、この言葉自体に嘘偽りはありません。

それでは医師が投資用区分マンションを購入した場合、なぜ節税になるのか?詳しくはこちらの記事で解説しますが、ここでは簡単に説明してみます。ひとことで言えば「投資用不動産を購入することで課税所得額を減らすことが出来るから」です。我々勤務医は多額の所得税を納税しています。そしてその額は頑張って給料が上がれば上がるほど増えていきます。我々が納める主な税金は住民税と所得税ですが、所得が上がれば、その両方が増えることはイメージできると思います。

所得税も、住民税も所得が上がれば連動して上がるので、税金を減らすには、課税される所得を減らせば良いということになります。ただ、実際の給料を減らせば生活も厳しくなるので、これでは本末転倒です。そこで投資用不動産の登場となるわけです。

投資用マンションのような不動産を購入すると、不動産取得の際の諸経費や減価償却費、直接関連する経費などによる損失(赤字)を給与所得と合算することが出来るようになります。これを損益通算といいます(参照:国税庁 損益通算)。上記赤字の中で最も重要なのが減価償却費です。これは、不動産投資をする上で最も重要なことなので、こちらの記事で詳しく説明しますが、簡単に言えば、購入した不動産(建物)の価値(値段)は経年劣化するので、その分を損失として計上して良いですよ。という仕組みです。この減価償却費は実質的に出ていくお金ではないので(売却時に関連する)、損益通算することで実質的には建物価格を毎年分割で赤字計上できるので、その分を不動産所得の損失(赤字)として損益通算することで課税される総所得を減らすことが可能になるのです。厳密には減価償却期間は購入する不動産によって変わりますので詳細はこちらの記事をご参照ください。具体的に4,000万円の新築区分マンションを購入した場合、減価償却費(定額法)は以下のようになります。

マンションの建物(鉄骨鉄筋コンクリート)代3,000万円、土地代1,000万円だった場合:1年間の減価償却費は66万円

そこで営業マンはこう囁きます。

「毎月714円支払うだけで、35年後にはこのマンションが先生のものになりますよ。さらに毎年66万円の節税も出来て、経費も使えるようになります。万が一、赤字経営になっても、その分は節税になりますから安心ですよ~」

でも考えてみてください。低めに見積もってもこのマンションの購入には1,590万円を支払うことになります。35年で割ると45万円/年です。節税66万円は所得税還付額66万円ということではありません。私ならこのマンション購入しません。

勤務医が投資用不動産を購入することは間違っているのか?

というわけで、新築区分マンションの購入はそれほど得にはならないと私は考えています。この話を研修医の先生達にすると必ず帰ってくる質問が上記です。この答えは「間違っていません」。私は勤務医が資産形成する上で最も相性が良いのは株でも投信でもFXでもなく、断然、不動産投資だと思っています。これについてはこちらの記事でまとめていますのでよろしかったら是非ご一読ください。

また、実際には、親身になって勤務医の資産形成について考えてくれる不動産営業マンが存在することも事実です。中には本当に切れる(出来る)人もいて、医師としての仕事の参考になるような、スキルの高い営業マンもいます。営業マンの見極め方については、こちらの記事をご参照ください。

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