勤務医とふるさと納税
年末になると医局内で盛り上がるのが「ふるさと納税」の話題ですね。
ふるさと納税も納税額(控除限度額)で、およその年収が推測可能なので、具体的な納税額はあまり公言しない方が良いように思いますが、年間60万円以上、ふるさと納税をしている先生はかなり高年収なのではないでしょうか。もちろん家族構成などによって納税対象額は変わっては来ますが。
そんな、ふるさと納税ですが、どのくらいの節税効果があるのでしょうか?
色々な考え方があると思いますが、私はふるさと納税に節税効果はないと考えています。では、ふるさと納税をしたら何の得にもならないのか、と言われると答えはNoです。お得な制度であることは間違いありません。
ふるさと納税とは?
そもそも、ふるさと納税という制度は、どのようにして成立したのでしょうか?
ふるさと納税の発案者は福井県知事だった西川一誠さんだったと言われています。西川元知事は地方間格差や過疎などで、税収が減少している地方自治体と人口が多く税収の増加している都心部との格差を是正するために「故郷寄付金控除」の導入を提案し、2008年からふるさと納税制度が始まりました。
ふるさと納税の面白いところは、納税する地方自治体と、納税した税金の使い方を納税者が選べることだと思います。この考え方は、総務省もふるさと納税の「3つの大きな意義」の一つとして掲げています。
"ふるさと"とはいうものの、自分の生まれ故郷ではない自治体に納税できることは、医局人事で転勤の多い勤務医の先生にとっては、かつての勤務地にノスタルジーを感じる機会になるのではないかと思います。私も4県をまたぐ異動歴がありますので、かつての勤務地にせっせと納税して当時を懐かしんでいます。
納税した税金の使途を選べるのも、ふるさと納税の特徴の一つですよね。最近では何処の自治体でも「医療・福祉の充実のため」「次世代の育成のため」など、納税する際に税金の使用目的を大雑把ではありますが、選択することが出来るようになっています。我々勤務医は多額の所得税、住民税を納めていますので、訳も分からない道路工事など、不透明に税金が使われていくよりは、使途が見える化されることは安心・納得感につながるのではないでしょうか。
そんなふるさと納税ですが、制度が開始された当初は認知度も低く、納税額も少なかったのですが、2011年の東日本大震災の際に全国的に知られるようになったと言われています。
その後徐々に注目度が高まり、2015年に限度額が2倍に拡充されると、一気に人気が爆発しました。この頃からふるさと納税を始めた先生も多いのではないでしょうか。
時を同じくして2015年から「ふるさと納税ワンストップ特例制度」が創設されました。この制度は、本来、確定申告が不要な給与所得者が5つの自治体にふるさと納税を行う場合は、確定申告をしなくとも住民税の寄附金税額控除を受けられる(所得税控除は受けられません)という制度です。我々勤務医の場合、6つ以上の自治体に寄付することが多いこと、大学勤務の先生(バイト収入がある)、年収2000万円の先生、原稿料や講演料が年間20万円を超える先生など、他の理由で確定申告をしている先生には関係ない制度で、私も利用したことはありません。
この頃から、金券などの過度な(超嬉しい)返礼品が続々と登場し、ふるさと納税はピークを迎えます。いわば、「ふるさと納税バブル」とも言える返礼品合戦に対し、2017年に総務省が「返礼品は寄付金の3割以下かつ地場産品であること」という通知を出しますが、強制力がなかったため、焼け石に水、といった状態でした。
しかし、この頃から、ふるさと納税バブルに暗雲が立ちこめはじめ、ついに2019年改正地方税法が可決され、事実上、ふるさと納税バブルは骨抜きにされ、終焉を告げました。この新制度により静岡県の小山町、大阪府の泉佐野市などがふるさと納税の対象から外されてしまいました。
個人的には上記2自治体が、ふるさと納税の納税額全体の8割を占めていたので大きな衝撃でした。一方で、今でも覚えているのが、泉佐野市が2019年5月末日まで(法改正直前)行った「最大で最後のキャンペーン」でした。なんと、返礼品に加えて「Amazonギフト券を納税額の最大40%」プレゼントするという神のような大盤振る舞いでした。このキャンペーンの実施期間は短かったものの、タイミングが年の前半の5月ということもあって、私も全力納税した記憶があります。現在もAmazonギフト券のキャンペーンは度々行われていますが、この時のインパクトを知っているものからすると正直なところ食指は動きません。
ふるさと納税バブルよ再び!
このように骨抜きにされてしまったふるさと納税制度ですが、以前のようなバブル状態の再現はあり得るのでしょうか?
個人的にはもう二度と、あのような状況になることはないと思われます。
高額返礼品でバブル生活を送っている高額納税者(お金持ち)がマスコミで取り上げられると、「格差社会が助長されている」「金持ちだけが得する制度」などという不公平感が蔓延してしまう可能性が危惧されるからです。政府的にはふるさと納税制度がなくなっても税収が減るわけではありませんし、むしろ東京、大阪などの大都市にとっては、住民がふるさと納税をしない方が税収が増えるわけで、結局の所、地方自治体とお金持ち以外誰も困らない制度であることを考えると、政府的には「過ぎたるはなお及ばざるがごとし」のスタンスは崩さないのではないかと推測します(私見です)。
ふるさと納税の節税効果
前述しましたとおり、ふるさと納税制度は、本来住民票を置いている自治体に納入すべき税金の一部を、全国の他の自治体に納税することができ、納税したお礼として返礼品を受け取ることができる、というシステムです。結局は納税する税金が減るわけではありません。
「2000円を払うことで、住民税と所得税を前もって納税する(限度額まで)ことで素敵な返礼品がもらえますよ」というシステムと言えましょう。ふるさと納税した翌年に税金の還付と住民税減額を受けることが出来るので、あたかも節税になったかのように錯覚しがちですが、前年に納税しているだけです。節税と言うより、前納と言った方が言い得ているのではないでしょうか。
それではふるさと納税は節税にならないので「先生はこの制度を利用しないのですか?」と問われれば「いいえ、今年も必ずします」と答えるでしょう。その理由は以下の通りです。
1. たったの2000円で、納税したときに素敵なプレゼント(返戻品)がもらえる。
2. 自分の意思で選んだ(思い入れのある)自治体に税金を納めることが出来る(名目上は寄付です)
3. 税金の使途を自分で決めることができる。
ただただ高額な税金を無理矢理納めさせられるよりは、ずいぶんと素敵でお得な制度だと思います。
結論:ふるさと納税は節税ではなく前納制度で、2,000円払うと納税時に素敵な返礼品がもらえるお得な制度。