勤務医と高級車
高級輸入車を所有することは、「お金持ち」の代名詞ともいえるのではないでしょうか。我々勤務医の間でも高級輸入車はやはり人気があります。常に新車で購入し、短いサイクルで買い換え、常に最新モデルに乗っている、という先生を目にすることが多いのも事実です。
私が勤務する病院の医師駐車場もご多分に漏れず、さながら高級輸入車の展示場、といった様相を呈しております。BMW, ボルボ、メルセデスはもとより、クライスラーやテスラ・・・聞いたこともないような高級輸入車も駐車されています。ただ、不思議なことに勤務医としての役職の高さと、所有車の購入価格(推定)は必ずしも相関関係にはないようです。
役職の高さと年収はほぼ相関しているはずなので、不思議と言えば不思議ですね。ちなみに、当院は研修医の給料が高いので、メルセデスやポルシェに乗っている研修医は大学病院等に比べると、有意に多いと思いますが、一方で、大衆車や軽自動車に乗っている部長職(最高職)の先生もしばしば見かけます。私も部長の端くれですが、ホンダのワンボックスカーに乗っていました。
知ってる部長
あるとき同じように国産のワゴン車に乗っている先生に聞いてみました。
私 「先生は当院の勤務も長いのに、外車に乗らないのですか?」
知ってる部長「車は負の資産ですからね」
(おっ!この先生は「知ってる先生」だ!)
私 「お住まいのマンションは区分所有ですか?賃貸ですか?」
知ってる部長「購入しても結局、修繕積み立て費や管理費を取られますよね」
私 「おっしゃる通りで、私は賃貸派なんです」
知ってる部長「賃貸なら、病院から家賃補助も受けられますしね。私も賃貸にしています」
この短い会話だけで、この先生は資産運用やマネーに関するリテラシーが高いな、ということが十分伝わってきました。勤務医にとって賃貸住宅とマイホームのどちらが向いているのかはケースバイケースですが、詳しくはこちらの記事をご参照下さい(勤務医はマイホームを買うべきか、借りるべきか)。
車は負の資産
投資の世界では、自家用車は「負の資産」と考えられていることは御存知でしょうか?車は新車として購入した直後から中古車となってしまい、どんなにリセールバリューが高い車でも、買い取り価格は新車価格よりも下がってしまうからです(プレミアムカーなど、まれに例外はありますが・・・)。
移送などの際に、わずか数キロしか走行していない車でも、ディーラー名義で陸運局に登録された時点で新車ではなく「新古車」とか「登録済み未使用車」などと呼ばれます(以下新古車)。新古車は、展示車や試乗車などとして使用されていた場合も多いのですが、中には、デーラーがノルマ達成のための販売実績を増やすため、自ら購入する場合もあるようです。これらの新古車の中には、機能的には新車同様の車も存在しますが、新車に比べ価格は下がり、その傾向は高級輸入車において、より顕著となる傾向があります。2021年にBMW社の過剰ノルマにより同社の新古車が市場にあふれ、公正取引委員会から、独占禁止法違反疑いで立ち入り調査を受けたというニュースがありました。
そもそも車を所有するということ自体で以下のコストがかかります。
① 車検費用・・・高級輸入車の方が一般に車検費用や消耗品代金(ファンベルトなど)は高くなる傾向にあります
② 燃料費・・・ハイブリッド車や電気自動車はそもそもの本体価格がまだまだ高価です。ガソリン代も社会情勢により高騰する場合があります。
③ 自動車保険・・・自動車保険は確定申告時の保険料控除の対象外で、節税効果もありません。
④ 駐車場代・・・都心部での「2台持ち」ではマンションの駐車代とは別に、更に近隣に契約駐車場を借りる必要が生じる場合があります。
④ その他・・・ 寒冷地ではスタッドレスタイヤなど。
少し話が横道にそれましたが、機能的にも審美的にも新車と変わらない新古車でさえ、市場価値は低下してしまうということです。これが「車は資産ではなく負債」と言われる所以です。本ブログ主も大きな影響を受けた、ロバート・キヨサキ氏の「金持ち父さん 貧乏父さん」的発想では以下のような例え話がよく使われます。
あなたが300万円の車を欲しいなあと思っている時に、たまたま300万円の臨時収入があった場合、次のどちらの行動を取りますか?
① 300万円の車を即、購入する。
② 毎年100万円の収益を生むビジネスの立ち上げに300万円投資して、3年後に車を購入する。
お気づきかもしれませんが「資産形成」においては、後者の選択肢が推奨されるということです。しかしここでは敢えて一歩踏み込んで、
「③ 300万円で買える4年落ちの高級中古車を買う」という選択肢を追加したいと思います。
この方法は開業医の先生であれば、減価償却費による経費として計上することで、有用な節税法となるのですが、残念ながら我々勤務医は、一般的にはその恩恵にあずかることが出来ません。なぜ③の手法が開業医の先生や、医療法人の経営者にとって有用なのかは、こちらの記事を御参照下さい。(車を買うなら4年落ちの高級中古車を狙え!)「経費」という武器を手にすることが出来ない我々勤務医の痛いところです。ただし、上記は「一般的には」のお話しで、全く不可能な話ではありません。詳しくはこちらの記事(勤務医が自動車購入費を経費化する方法)をご参照ください。
勤務医と経費
それでは勤務医は「経費」という武器を全く使えないのでしょうか?実は勤務医にも税制上の経費は認められています。それが「特定支出控除」を利用するという方法ですが、条件がかなり限定的であり適応例は少ないのが現実です。勤務医の特定支出として認められるのは
- 通勤費・・・通勤に必要な公共交通機関の料金やガソリンなどの燃料費
- 転居費・・・異動などで病院が変わる際の引っ越し費用など
- 研修費・・・学会やセミナーなどの参加費や参加するための交通費
- 資格取得費・・・専門医取得のためのセミナー、研修参加費など
- 帰宅旅費・・・単身赴任している場合の自宅への旅費など
- 勤務必要経費(図書費・衣服費・交際費)・・・上限65万円
これらの経費は規定も厳しく、例えば①や⑤において、グリーン車やファーストクラスの料金は認めていません。どうしてもグリーン車やファーストクラスで移動したい場合は、みどりの窓口で「領収書を普通席での運賃分のみで発行してもらう」と良いでしょう。こうすることで、グリーン車でのエキストラの料金は自腹になりますが、普通席換算での運賃分のみを経費として計上可能となります。同様に航空運賃でもビジネスクラスで移動した際に「ビジネスクラス料金を、エコノミー席での当日料金分での領収書と、差額分の領収書の2枚に分けて発行してもらう」ことも可能です。このテクニックは勤務先の病院への出張旅費の精算時にも役に立つテクニックです。私の経験上、JRやJAL、ANAは快く対応してくれます。
いずれにせよ、あまり何でもかんでも経費計上すると、税務調査が入ったときに否認される可能性があるので、税理士さんに相談しましょう。勤務先の病院から通勤費や学会参加費が支給されている場合にも特定支出としては計上できません。
また、特定支出控除の申請は、特定支出が給与所得控除の半額を越えていないと認められません。給与所得控除は、2020年から10万円引き下げられ、年収1000万円超の場合は、195万円に引き下げられました。特定支出の合計が、195万円の半額=97万5千円を越えていない場合は申請できないことになります。
具体的な例として、年収2000万円の勤務医で、特定支出が100万円あったとしても100万円-97万5千円=2万5千円しか特定支出控除にはなりません。現実的には長距離の引っ越し(かつ病院負担がなく自費で払った場合)でもない限りは、適応症例は少ないことが、おわかりになるのではないでしょうか。実際に、私も特定支出控除は申請しておりませんし、顧問税理士も「申請したことがない」と言っていました。
こえらの内容は、税務には素人である私の知見ですので、正確な内容を知りたい方は、是非、税理士さんや会計士さんに御相談ください。また、この手の税制はショートタームで変更されることが多いので、常に最新の情報にアップデートしておくことが必要です。私見ですが、今般のCOVID-19により、今後数年以内に、高所得層への税額は巧妙に引き上げられるのではないかと憂慮しております。
さて、勤務医の経費計上において一筋の光明であった「特定支出控除」も現実的には使えないとなると、やはり勤務医には経費による節税は不可能なのでしょうか?実は、もっとスマートかつ、効果的に「経費」を計上する方法があります。その鍵は、勤務中にかかってくるマンション押し売りの、あの迷惑電話にありますので、こちらの記事(マンション購入の迷惑電話が、なぜ損をするのか、説明できますか?)を是非ご一読ください。